コードバンの革靴。
馬のお尻にあるメガネとも呼ばれる希少なコードバン層を使ったレザーシューズは、波打つような独特なシワだったり、足をしっとりと包み込むような履き心地であったり、磨けば磨くほど一般的なカーフを使った革靴とはまた違ったツヤが出るといったユニークな特徴があり、数多くの革靴ラバーの心を掴んで離しません。
一方で、コードバンのシューケア(メンテナンス方法)については諸説・・・というか様々な流派があり、たとえば日本とアメリカでもその手順は大きく異なります。
今回はアメリカのコードバンケアでよく使われているシューケアアイテム「ディアボーン(鹿の骨)」についてご紹介します。
ディアボーンとは
革靴の歴史を紐解くと、コードバンシューズというものはアメリカのシューメーカー、ALDEN SHOEやAllen Edmonds、Florsheimなどによって発展してきました。
アメリカのバンカーや弁護士などに愛されたといわれるカラー8(バーガンディ)のロングウィング、オールデンが初めてデザインを起こしたエピソードが有名なブラックコードバンのタッセルローファー、包み込むような履き心地のチャッカブーツに、コードバンの登竜門とも言われるプレーントゥの990、それにモディファイドラストで有名な54321V-TIPなど本当にたくさんの名作があります。
アメリカなどの欧米で良く使われるシューケアアイテム
そんなアメリカなどの欧米のコードバンケアでよく使われているのが、今回手に入れたディアボーン(鹿の骨)と呼ばれるコードバン専用のケアアイテムなんです。
製造者はアビーホーン
水牛の角を使った加工品を得意とするアビーホーン社ですが、コードバンケア用のマニアックなアイテムも得意とするところだったりします。
日本でもっとも有名なコードバンケアアイテムとなるアビィレザースティックや、先日ご紹介したスリーキングボーンなど、ユニークな製品を多く取り揃えているメーカーです。
このディアボーン(鹿の骨)も例に漏れずABBEY HORN社が製造しています。
最近このロゴに愛着が湧いてきておりまして、靴べらなんかもほしいな~なんて思ったりしています。笑
コードバンの歴史と特徴
https://www.horween.com/blog/2012/04/17/through-the-lens-3
ここで一旦コードバン(CORDOVAN)について、軽くおさらいしたいと思います。
革のダイアモンドだったり、キングオブレザーともいわれるコードバン。
昔は今よりはポピュラーな皮革素材だったようですが、皮革需要の減少とともにコードバンを扱うタンナーの廃業が重なり、ついにはあのホーウィン社でさえも倒産する一歩手前となったところをオールデン社が救ったというエピソードは耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
農耕馬のお尻にあるコラーゲン繊維が緻密に詰まった箇所をコードバン層と呼ぶのですが、ちょうどメガネのような形になることから日本では「メガネ」とも呼ばれているそうです。
(これ実は人の肌でいう”タコ”みたいなものだそうで)
ちなみにホーウィン社によると馬だけではなく、ラバのコードバン層も使っているんだとか(!)
皮革素材としての特徴としては、輝くような光沢感にカーフとはまったく異なる波打つような大きな履きシワが有名です。
アメリカではホーウィン社、日本では新喜皮革社と、日本人の革靴好きであればすぐにこの2社の名前が出てきますが、実は世界的にもコードバンを製造できるタンナーは非常に限られており、さらには農耕馬自体も減少していることから、その希少価値は高まる一方となっているようです。
ディアボーンで本場アメリカ式のコードバンケア
さて、そんなアメリカで発展したコードバンシューズのケアですから、現在米国でもっとも有名な革靴ブロガーとなるTHE HANGER PROJECTを運営するKirby Allison式でやってみたいと思います。
1.ブラッシングしてホコリの取り除く
まずはチリやホコリ等をブラッシングで取り除きます。
万が一、小石などが残ったままコードバンを押し潰す作業をしてしまったら、思いっきり傷が入ってしまいますから、非常に重要です。(実際に小石がひとつ飛び出てきた)
2.レノベイタークリームで栄養補給する
次にサフィールノワールのレノベイタークリームでコードバン自体のコンディションを整えます。
私はいつもの癖で指で塗ってしまいましたが、ネル生地などがあれば塗り込むと同時に表面に残っている汚れを落とすことができますよ!
コードバン以外にも、雪や雨の日に使用するブーツやオイルドレザー系にもガンガン使えるので持っていない方はぜひ!
3.ディアボーン(鹿の骨)で毛羽立ちを潰しこむ
コードバンのコンディションを整えたら、ついにディアボーン(鹿の骨)の登場です。
毛羽立ってしまって表面が荒れたように見える箇所、そして擦り傷がついた場所などを入念に潰していきます。
Kirby Allison氏いわく、「円を描くようにマッサージする」と良いらしいです。
表面を潰しこんだところはマットな質感に仕上がります。
ディアボーンは大きくてそこそこ重さがあるのでレザースティックなどよりも擦りやすいのですが、細かい部分になるとスリーキングボーンの方がやりやすいですね。(しょうがない)
4.コードバンクリームを使って磨き込む
最後はコードバン専用のクリーム、今回はサフィールノワールのコードバンクリームを塗りこみます。
Kirby Allison式だとここからクリームの浸透を待つために30分放置するようです。
30分後、コードバンクリームが皮革に浸透し、表面がドライな状態になったらブラッシングをし磨き上げます。
控えめな光沢を求める場合はそのままバフィングしてしまいましょう。
オプション:ワックスポリッシュ
靴雑誌やSNSなどに掲載されるような光沢感を求めるなら、さらにサフィールノワールのミラーグロスなどを使ったワックスポリッシュを追加で行うと良いでしょう。
私はそこまで艶感を求めないタイプなのでここでストップしました。
ちなみにコードバンへのワックスポリッシュは本当に凄まじい輝きを生み出すことができるので、興味ある方はぜひ挑戦してみては?
ビフォーアフター
さて、こちらがビフォーアフターです。
ブーツ内側にあったスリ傷は消え・・・
つま先にあったひっかき傷もなくなり・・・
バンプ部分の履きシワは伸び、毛羽立ちまくっていたコードバン表面もとても滑らかになりました。
見ての通りですが、明らかにブーツのコンディションが改善されており、この出来栄えには大満足です。
本場アメリカ式のコードバンケアを覚えたと思うと、もはや向かうところ敵無しといった気分になりますね。笑
コードバンについた傷も消せる
こちらはパリのアナトミカが別注したオールデンのコードバンシューズ5610です。
キュッと絞った土踏まずが特徴のモディファイドラストに、内張りなしのアンライニング仕様でとっても軽やかな履き心地が大好きな一足です。
そんなお気に入りの一足のつま先に目立つ傷が・・・。
カーフの革靴だとワックスでポリッシュするくらいしかできませんが、コードバンだと「傷を修復する」ことができちゃうんです。
先述した通り、コードバンは乱暴にいえばスエードを無理やり寝かしつけた皮革素材です。
なのでイメージとしては、起毛部分までに留まった傷であれば再度寝かしつけることで綺麗サッパリ消し去ることができるはず。ということですね。
スエードも毛並みを乱したくらいの擦り傷ぐらいだったらブラッシングで消えます。
ブラッシング
絶対に忘れてはいけないブラッシング。
チリや小石をしっかり取り除きます。
鹿の骨(ディアボーン)で押し潰す
表面が綺麗になったコードバン、次は傷を狙って鹿の骨(ディアボーン)で潰しこんでいきます。
潰れた箇所はワックスを塗ったように曇るのですぐにわかるので簡単です。
*クロケットジョーンズのシューケアガイドによると、ディアボーンで押し潰すと内部から天然オイルが表面に出てくることでコードバンの表面が滑らかになる仕組みだそうです。
何回擦り続けると・・・
これは傷が消えたように見えますが、結果は果たして。
再度ブラッシング+ポリッシング
ディアボーン(鹿の骨)で擦った部分を再度ブラッシングし、柔らかい布やポリッシングロープで仕上げます。
すると・・・
傷が消えました!
大成功です、よかった~!笑
もちろん、傷の深さによってはどうにもならないときもあるのでそこは注意が必要です。
ディアボーン(鹿の骨)のまとめ
ということで本記事ではアメリカにおけるコードバンケアの定番アイテム「ディアボーン(鹿の骨)」についてご紹介しました。
その効果はもちろんのこと、やはり本場のケアグッズを使って自慢のオールデンなどをケアする時間は何よりも代えがたいものです。
国内では取扱が少なく、なかなか手に入りづらいアイテムではありますが、ALDEN等のコードバン製の革靴を持っている方はぜひ検討してみてはいかがでしょうか?
日本では犬用のおやつとして作られているみたいで…、文化が違えば用途も変わるのは面白いところですね笑
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