10年前、20年前、はたまた30年前のビンテージ革靴。
古着屋さんなどで売っている古い革靴は大抵履き古されたもので、皮革のコラーゲン繊維が破断しつくして履き皺が深く入って固定的になっていたり、あるいはそもそもアッパーレザーに亀裂が入っていたりというものが太宗を占めています。
もちろん稀にシューツリーを入れながらしっかりケアされてきた靴もありますが、今回はそういったいわゆる中古靴のことではありません。
誰にも足を通されることなく、化粧箱に入ったまま現代にたどり着いてしまった革靴たち…。
そう、今回はデッドストックの革靴のシューケア、プレメンテナンスを実際に行った様子をご紹介するブログ記事となります。
デッドストック(DEAD STOCK)とは?
まず、デッドストックの定義についておさらいをしていきます。
直訳すると「しんだ在庫」ということで、まさに文字通り小売り店が仕入れたものの、顧客の手に渡ることなく倉庫に眠り続け、挙句の果てに廃業等を経由して市場に流れてきた「古い新品」のことを言います。
言い方を変えると「売れ残り品」とも言えますね。笑
また、買ったはいいものの、一度も使うことなくご自宅の箪笥で十数年保管されているものもデッドストックとして扱われることが多いです。
デッドストックの革靴の注意点は?
一般的にデッドストックはミリタリー関係や、あるいはリーバイスのデニム・ジーンズなどで登場する単語でもあります。そのため保存状態が良ければ何も問題なくすぐに使えるのですが、革靴の場合はそうはいきません。
先ほど触れたとおり、革靴は文字通り「皮革」を使ってつくられており、この皮革レザーは水分と油分により柔軟性が保たれる性質の素材です。そして、皮革から水分と油分が使用はもとより経年でも抜けていくことは皮革素材の特徴でもあるのです。(シューケアをしないとレザーが固くなる)
つまり、レザー素材を使ったデッドストックは使用前に必ず入念なレザーメンテナンスをする必要があるということです。ある日突然クラックや破断、革が裂けたという話はいくらでも出てきます。
ビンテージレザー、デッドストックレザーは質が良い話もある
一方で、昔に製造された皮革製品ほど、質が良いと言われることがあります。
皮革の鞣し方、製造方法であったり、あるいは原料となり牛の飼育環境の時代の変化によるものですが、これも事実としてビンテージレザーには現代のレザーにない品質や、肌理のきめ細かさがあるということで、ビスポークシューズメーカーなどでは未だにどこかの倉庫に眠っている隠れたデッドストックのビンテージレザー素材を探し続けているそうです。
グリセリン漬け(Glycerin Leather Conditioning)
ビンテージシューズのケア、コンディショニングには古くから伝わる手法があります。それがグリセリン漬けと呼ばれるものです。
化粧品などでも多く使われるグリセリンは非常に強力な吸湿性があり、この特性が油分と水分が抜けてしまったビンテージレザーへの処置にピッタリという訳なんです。写真の引用元によるとワシントンDCにあるスミソニアン博物館でもアンティークレザーの修繕に使用されているほど世界的にも認められている手法です。
やり方は簡単で、靴全体にグリセリンを含ませた柔らかい布やティッシュなどを巻き付け放置するだけというもの。
しかし、このやり方はシューケアマニアにとっては何だか裏技チックな気がしませんか?笑
旧チャーチのデッドストックをケアする
ということで、いよいよ本題です。
今回は先日手に入れた約30年以上前のデッドストック革靴、旧チャーチのプレメンテナンスを行っていきます。
今回はコロンブス社が高級紳士靴の修理と販売をメインに全国展開するリファーレさんと共同開発したラインとなる「BOOT BLACK(ブートブラック)」のシューケアアイテム中心で挑んでいきます。
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1.リッチモイスチャーで乾いた皮革を徹底的にコンディショニング
まずは昨今最も評判の良いレザーケアアイテムのひとつである「ブートブラック リッチモイスチャー」を使ってグリセリン漬けの代わりにアッパーレザー全体をコンディショニングします。
リッチモイスチャーには、アルガンオイル、マカダミアナッツバター、ヒマワリバターと人間の化粧品レベルのナチュラルな保湿保革成分がたんまり入っています。
履き皺部分はとくに塗り込みをして、徹底的にケア
革靴の履き皺が入る部分、いわゆるバンプと呼ばれる箇所には念入りにブートブラックのリッチモイスチャーを塗り込みます。
まず間違いなく靴を履くうえでもっとも強い力がかかる部分ですし、大抵の靴のクラックもこの履き皺の山部分から発生しますから、塗り過ぎるということはありません。
最後はブラッシングでフィニッシュ
このリッチモイスチャーもいわゆる靴クリームに属するシューケアアイテムですから、塗布してある程度乾燥させたあとのブラッシングは必要です。
リファーレの松添代表によると、革靴へのブラッシングはコラーゲン繊維を動かす効果があり、表皮と真皮の定着を継続させる効果があるそうですよ。
皮革がしっとりし、当面は破断やクラックとは無縁な雰囲気が出ています。
しっかし、この旧チャーチCONSULは良い革だなあ…。
2.BOOT BLACK ソールモイスチャーで革底を徹底的にコンディショニング
ブートブラックのレザーコンディショニナーは、ホホバ油とミネラルオイルが主成分のレザーソール専用のケアアイテムで、ベタつきが残りづらい配合が特徴のシューケアアイテムです。
このレザーソールコンディショナーを乾ききって木のような雰囲気になったレザーソールにたっぷりと塗り込みます。
ビックリするほど吸収して、本当にビックリ(笑)したのですが、ネル生地で仕上げると控えめなツヤとともにソール全体がシットリとなりつつ、本当にベタつかない状態となりました。
これで歩き出したと共にレザーソールが割れてしまった…。なんてことの心配は不要になり、一安心といったところ。
レザーコンディショニングが完了!
ということで、ブートブラックシリーズのシューケアアイテムを使ったビン靴のレザーコンディショニングが完了しました。
アッパーレザーにはBOOT BLACKリッチモイスチャー、レザーソールにはBOOT BLACKソールコンディショナーで死角なしといったところ。この2つのシューケアアイテムについては、以前詳細にレビューしたブログ記事がありますので、よろしければご覧ください。
3.ブートブラックの靴クリームとTHE WAXで仕上げる
30年ほど前に製造されたであろうデッドストックのレザーシューズをたっぷり保湿保革した後は、ドレスシューズらしい靴磨き、シューシャインを行って仕上げていきたいと思います。
ここで使用するのはもちろんブートブラックシリーズの靴クリームに、ポリッシュ…、ではなく先日いただいたBrift H SAPPOROの世界チャンピオン優勝記念THE WAXを使ってみることにしました。
まずはブートブラックの靴クリームの黒を靴全体に塗り広げていきます。
リッチモイスチャーはあくまで保革・保湿がメインですから、ブートブラックシュークリームで靴全体のツヤ出し、そして黒色の深み出していくのが目的です。
BOOT BLACK 靴クリーム黒
このブートブラック靴クリームは扱いやすい乳化性クリーム。加えて極細粒子のクリームなので銀面の凹凸を綺麗に埋めて、深い色味を出すことができるナイスなアイテムです。
靴全体に薄く塗り広げ、マットな塗膜が全体に広がったら磨き時。
豚毛ブラシなどで軽く磨くだけで驚くほどのツヤがアッパー全体に広がります。
THE WAX チャンピオンエディションで鏡面磨き
仕上げは靴磨き職人という職業を日本で確立し、今では日本どころか世界最強の靴磨き集団といっても良いBrift HのTHE WAXを使ってつま先をハイシャイン仕上げします。
先日習得した「指塗りをしないで鏡面磨き」をするテクニックを使い、面が整った鏡面を狙います。
デッドストックのビン靴をレザーコンディショニングした結果
左が何もしていないデッドストックシューズ、右がブートブラックシリーズの製品を使って保湿保革およびシューケアを行ったデッドストックシューズです。
アッパーレザーの色味、そして銀面の状態が明らかに滑らかな仕上がりになったのが画像上でもよくわかります。
実際に触ってみたときの違いとしても、靴全体がちょっと重たくなったようなそんな感触があります。(おそらくシットリ感が強くなったことによる印象もあると思います)
つま先についてはこれを鏡面といって良いのか問題があるものの(笑)つま先を保護するという意味では現在では十分でしょう。靴によってはキャップ部分にシワが入ることもありますから、デッドストックのビンテージレザーシューズに最初からガチガチの鏡面形成は少しリスクがありますしね。
まとめ
今回はシューケアマニアが数十年前につくられたデッドストックの革靴をプレメンテナンスするという内容をお送りしました。
これまで全3回にわたって、楽しんできたビンテージ革靴となる旧チャーチの記事も今回で最後となり、少し寂しい気持ちもありますが、革靴は履いてナンボのもの。さっそく履き下ろしてガンガン使っていきます。
当面はアッパーレザーの状態に気を付けながらシューケアを施していく予定ですが、それでも万が一アッパーの破断やクラックという悲劇が起きた際には、第4回をお送りしたいと思っています。笑
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