先日、日本では第三回目となる靴磨き選手権大会2020が銀座三越で開催されました。
靴と靴磨きを愛する人たちのためのシューシャインフェスタと銘打ったこの大会。
日本中のみならず世界からもプロアマ問わず靴磨きの腕自慢が集まり、毎回大変な盛り上がりをみせています。
靴磨きってなんぞや?
そもそも靴磨きがよくわからない方もいると思うのでここで改めて靴磨きについてご紹介します。
靴磨きには色々な定義があるとは思うのですが、もっともシンプルに表現するならば「革靴を磨いて光らせること」になるかなと思います。
牛や馬、豚などの本皮で出来た靴を、ロウ分と油分が入ったクリームやワックスを使って磨き込む。
そうすることで革自体が持つポテンシャルが引き出され、革靴が美しく輝き始める。
これがもっとも原始的な「靴磨き」の世界です。
私と靴磨き
私と靴磨きの出会いは思い返せばメキシコ旅行のとき。
信号待ちをしていたら、ストリートチルドレンに「シャイン!ユアーシューズ、シャイン!クイック!クイック!」とつたない英語で強烈に売り込みされたことでした。
当時私は革靴に一切興味が無く、履いていたのはロックポートのウォーキングシューズでしかもシボ革。
「この靴は光るような靴じゃないからいらないよ」と何度伝えても食い下がられ、「生活が大変なんだろうけど、ちょっと怖いし時間もないし、そもそも光るような靴じゃないし・・・」と思いその場を離れました。
そのときのイメージは「靴磨きってこういう人たちの食い扶持なんだなぁ」程度の印象でした。
それがある日、とってもスタイリッシュな動画に出会います。
GARRASTYLEという動画で靴磨きとアイロンがけをとってもスタイリッシュに見せる動画でした。
靴ブラシを空中でくるくると回しながら、ハンドラップから謎の液体を取り、特注に見えるような不思議なワックスで靴を磨いていく。
それがかっこよくてかっこよくて!
そこから紆余曲折を経て、札幌のBrift H The Lounge初代店長のHさんの靴磨き教室で本格的な技術を学ぶことができました。
これらは本当に幸運だったと思います。
動画に出会っていなければ「靴磨き=メキシコで出会ったストリートチルドレンがやるような仕事」で終わっていましたし、靴磨き教室に通わなければ「靴磨きってこんなに奥が深くておもしろいものなんだ!」と思うこともありませんでしたから。
ただ一方で父には最後まで靴磨きの良さはわかってもらえませんでした。
何度か靴を磨いてあげようと思ったのですが、たとえ新聞紙を広げたところで「靴を居間に持ってくるな!そんなものは玄関でやれ!」と怒られたものです。笑
父にとっては靴磨きは主婦がやっておくべきものという価値観だったんですね。
こういった経験もあって、私がいま感じている靴磨きという文化は、面白いくらいに幅広い価値観に揉まれているカルチャーだと思います。
ただひとつ言えるのは「靴磨き=カッコいい!」という新しいポジティブなイメージが徐々に定着し始めていること。
これは本当に現在まで活動されている靴磨く職人さんたちの功績が大きく、その結果はシューケア用品市場の拡大を見ても明らかです。
国内の靴磨き業界の現状
さて、ここで国内の靴磨き業界について振り返ってみます。
戦後の高度成長期と共に日本でも路上で靴磨きという職業が発生しましたが、これまでの世間一般のイメージ通り、貧しい子供などがやる職業という側面が強く、当時はあまり身なりの良いものではなかったそうです。
しかし、これをビジネスチャンスとして目を付けたBrift H創業者長谷川氏が長い年月と途方も無い努力をかけて「靴磨きはカッコいい!」という新しい価値を訴求していきました。
徐々に「靴磨き屋」が「靴磨き職人」としてイメージが変化し、その地位も向上してきました。
そしてかの靴磨き世界大会で長谷川氏が優勝してからというもの、世界的な認知度のみならず、そのスタイルに影響を受けた方たちが本当にたくさん増えてきたように思います。(もちろん長谷川氏以外に影響を受けた方も数多くいるでしょう!)
そんなわけで今では靴磨き職人といえば「クラシックファッションを中心とした出で立ちで髪型もバッチリ決めたオシャレな人」というイメージが定着し、以前に比べると非常に人気のある職業の一つになってきたように思います。
カウンター磨き、靴磨きライブが人気。
特にその人気の中心となっているのがカウンター磨きや靴磨きライブと呼ばれるスタイルです。
とってもオシャレな空間で靴磨き職人が自分の愛靴をピカピカに磨く様子を見ながらドリンク片手に30~40分程度のトークを楽しむ。
とくに人気があるお店では職人の指名料金が発生するほどで、当日行けばすぐに磨いてもらえる時代は終わり、人気店であれば予約が必要なほど。
靴磨き好きの中では、トップの靴磨き職人に会うというのはもはや芸能人に会いに行くような感覚です。
これは言葉を選ばずわかりやすく表現するならば「美容室」だったり「歯医者」のようにプロから時間と技術を買うというサービス業として、一般層に認められつつあるということに違いありません。
「革靴を通じて自分のためだけの至福の時間を過ごすことができる。」
これに価値を見出す人(カスタマー)が増えてきているんですね。
間違いなく「靴磨き」の地位は著しく向上しています。
靴磨き選手権大会とは
靴を永く履くために、そして自分らしさを表現するために「シューシャイン(靴磨き)」を嗜む人が増えています。
(省略)
プロの職人はもちろん靴磨きの技術に自信のあるアマチュアの方まで、ハイレベルかつライブ感あふれる祭典にご期待ください。
さてさて、前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、、、
そんな靴磨き職人の頂点を決めるのが「靴磨き選手権大会」です。
2018年から開催が始まったまだ若いイベントですが、ニコニコ生放送では13,000人以上に視聴されるほどの大人気コンテンツです。
日本を代表するシューケアメーカー各社や革靴メーカースコッチグレインが協賛。アドバイザーには「紳士靴を嗜む」の著者でもある服飾評論家の飯野高広氏。
審査員としては初代靴磨き日本チャンピオンの石見豪氏(TWTG)や、日本人2人目の靴磨き世界チャンピオンの杉村裕太氏、さらには日本で唯一といっていい革靴専門雑誌LASTの編集長であったり、メンズファッションライターの方などが顔を連ねています。
ただ単に革靴を輝かせるだけではなく、いわゆる所作(乱暴にまとめるとどれだけ上品に丁寧に振舞っているか)、それに提案力。(どういったシーンやファッションに合わせる仕上げなのか)そしてスピード。という靴を磨くというところだけではなく、メンズファッションやジェントルメンな姿勢などを含めた総合力を問われる非常に高いレベルの大会となっています。
靴磨き選手権大会2020の審査員
- 石見 豪(靴磨き日本選手権大会 2018 優勝者)
- 杉村 祐太 (World Championships in Shoe Shining 2019優勝者)
- 沖本 浩一郎 (株式会社ルボウ代表取締役社長)
- 静 孝一郎 (株式会社R&D 代表取締役社長)
- 服部 暁人 (株式会社コロンブス 代表取締役社長)
- 菅原 幸裕(男の靴雑誌『LAST(ラスト)』編集長)
- 廣川 雅一 (株式会社ヒロカワ製靴 代表取締役)
- 丸山 尚弓 (メンズファッションライター)
靴磨き選手権大会の流れ
- 総勢67名がエントリーし、ビデオ予選を経て32人まで絞られました。
- その後、2/15(土)にグループ予選を4ブロックに分けて実施、各ブロック上位2名とさらに全体で8名がグループ予選を通過しました。
- 残った16名で2/16(日)に準決勝を行い、上位4名が決勝進出となりました。
決勝戦に残った上位4人
新井田 隆(Brift H/東京都)
一人目はBrift Hの新井田さんです。
世界初の靴磨き世界チャンピオン長谷川氏によるBrift Hで磨かれたその腕前はもはや東京代表といっても過言ではありません。
昨年の大会でも決勝に残った実力派の方で、もちろん優勝候補の一人でした。
なかじま なかじ(Freestyle SHINJUKU/東京都)
2人目は新宿を中心に活動されているなかじまなかじさん。
Brift Hのエキナカ店となるBrift STANDを拠点としながらもセレクトショップやテーラー、それに各種イベントやパーティ、歌舞伎町などでゲスト出演をされるほど人気引っ張りだこだそう。
決勝ではもっとも少ないシューケアアイテム数で挑まれているのが印象的でした。
樺澤 幹人(Glayage KYOTO/京都)
3人目は京都の靴磨き店、Glayage KYOTOの樺澤さん。
ミウラもかなりお世話になっているシューケアブランド、SAPHIRの公認シューケアトレーナー(AVEL社認定)でもあります。
元々はファッション業界(セレクトショップ)出身だそうで、私の愛読ブログでもあるoboistさんとも交友が深い方ということで個人的に注目していました。
細見 大輔(THE WAY THINGS GO/大阪府)
4人目は目下2連覇中のTWTG出身の細見さん。
実は私はほとんど存じなかったのですが、決勝に残った4人の中ではいわゆる所作がもっとも丁寧に見えていたのが印象に残っています。
ニコニコ生放送上のコメントを見てもやはりかなりの実力者なんだなあと感じていました。
決勝は息を飲むほど静かな戦い
準決勝までは少しお祭り的な雰囲気もあってガヤガヤしている感もあったのですが、決勝だけは少々違う雰囲気だったようで司会者の方が「このグループは本当に静か」といっていたのが印象的でした。
もちろん今年のチャンピオンが決まる最後の一戦ですから、会場の方も、私のようにテレビやモニタを通じて楽しんでいた方も息を飲んで真剣に見てしまうのは気持ちがとてもわかるところです。笑
さてさて、そんな決勝戦を見事制したのは・・・
靴磨き選手権大会2020の優勝者は細見さん!
決勝に残った4人による激戦を見事に制したは細見大輔さん(TWTG/大阪府)でした。
これで靴磨き選手権大会は3年連続TWTGが優勝!という結果になりました。強いですね~!
私のイメージとしてはTWTG出身者は「とにかく余計な動きが少なく落ち着いた雰囲気で素早く丁寧に仕上げ切る。」そんなイメージです。
決してガシガシした雰囲気を出さないところに勝手に美学を感じています。笑
え、そんなにいうならちょっと見てみたいけど、流石に生放送全部を見るのはつらいよ~!って方は決勝だけでもご覧になってみてください。スゴイですよ!
靴磨き選手権大会2020で巻き起こった議論
さてさて大成功を収めたように思われる靴磨き選手権大会2020ですが、SNS上では少し議論されるところもありました。
それは「評価の透明性」に関わるところ。
決勝まで出場者の得点が全員公表されなかった点を中心に、様々な面から出場者、来場者、視聴者が意見交換を行っていました。
いくつか目立っていた動きをご紹介します。
出場者が大会をより良くするためのアンケートを実施
今回の予選通過者でもあり、SSM(Shoe Shine Meeting)と呼ばれる靴磨き好きのコミュニティ等を開催されている前澤さんがいち出場者として広く意見を募っていました。
集まった結果は三越の担当者に提出されるそう。
靴磨き選手権をみんなの声でもっと良くしたい、ユーザー視点で改善提案を行うためアンケートを行います。集計結果は公開、三越担当者に届けます。
ご協力お願いしますhttps://t.co/Q4mRQTiIhB— taro_maezawa_shoes (@shoeshineleathe) February 17, 2020
すげー40分しないで40件の回答がありました。
複数回回答できるので数の多さは何も表しませんが、参考まで
自由回答の集計はまた今度 pic.twitter.com/aAb8jNoTXV— taro_maezawa_shoes (@shoeshineleathe) February 17, 2020
初代優勝者が評価の詳細について開示
SNS上に限らず、リアルなところでも議論があったのでしょう。
初代優勝者(初代靴磨き日本チャンピオン)、そして今回の審査員でもある石見豪さん(TWTG)がインスタグラムで下記情報を発信されていました。
前回優勝者があえて今年も出場した理由を吐露
靴磨き選手権大会はまだまだ盛り上がり続ける!
そんな訳で大会終了後も色々な方面で盛り上がりを見せる靴磨き選手権大会。
話が反れますが、私自身もとあるマイナーカルチャーの活動に関わっていたこともあって、こういった動きは何度も目にしてきました。
私個人としては議論が巻き起こることは悪いことだと全く思いません。
それだけ「靴磨きに熱意を持った人」がいるという事実となりますし、表現の違いはあれどそのほとんどが「より良くするにはどうするべきか?」という姿勢に見えるからです。
こういったアツい気持ちを持つ方たちがいる限り、「靴磨き」は盛り上がり続けることと思います。
今から来年の靴磨き選手権大会が本当に楽しみです。
靴磨き文化に幸あれ!(ビールを片手に)
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