ボックスカーフについて
革靴でもっとも一般的なアッパー素材と言えば「カーフ」ではないでしょうか。
カーフとは生後6か月程度(※欧米では半年程度まで含めるそうです。)の子牛の革を指し、銀面の凹凸、そして毛穴も非常に小さいことから薄いのにきめ細かい銀面が特徴で、子牛ならではのしなやかなさも持ち合わせています。
成牛に比べて革が取れる面積も少ないことから牛皮のなかでは最高級とされる皮革素材です。
紳士靴や婦人バッグの最高級品でよく使われるボックスカーフという素材がありますが、カーフの中でも品質が高いものにクロム鞣しが施されたものを指します。
仕上げは色々とありますが顔料仕上げのものが多め。
アニリンカーフについて
最高品質の牛革といえばもう一つよく話題にあがる皮革素材があります。
それが「アニリンカーフ」です。
よくアニリン染めだとか透明感があって・・・とか書かれていますが、皮革初心者にとっては何が何だかわかりません。(笑)
ボックスカーフ同様に生後3か月から半年までの子牛(カーフ)素材を使ってつくられるのですが、その仕上がりはボックスカーフに比べると透明感が強く、銀面も確認しやすい状態となっています。
ただ、そんなこと言われてもわかりませんよね。
ボックスカーフとアニリンカーフを比較してみる
そんな訳でたまたまですがボックスカーフの革靴とアニリンカーフの革靴を履き下ろす前に揃えることができたので色々と比較してみることにしました。
靴自体については下記表をご覧ください。
左 | 右 | |
メーカー | J.M.Weston | Crockett & Jones |
靴名 | 376 | Belgrave3 |
アッパー素材 | ボックスカーフ | アニリンカーフ |
アニリンカーフの特徴
まずはアニリンカーフの特徴ですが、ボックスカーフと同様にクロム鞣しされたカーフの皮革素材にカゼインなどのたんぱく質系のベースコート(バインダー)を施したものを指します。
アニリン仕上げにおいては、銀面の上にベースコートとトップコートの2層がある中でベースコート層で染料や微細粒子の顔料を使用しているため、塗装膜内で反射がほぼ発生しません。なので銀面の状態が見やすい仕上がりとなっています。
銀面の状態がそのまま仕上がり状態に直結することから製造には極めて高品質な皮革が必要となります。(傷とか隠せないので)
審美性は優れるものの課題は耐久性。
後述するボックスカーフよりは明らかに水に弱いため、丁寧に付き合っていく必要があります。
ボックスカーフの特徴
顔料仕上げのボックスカーフの銀面はベースコート上で粒子に光があたり乱反射するため、アニリンカーフのように銀面の上が透き通ってみえるような表面ではありません。
最初はややマット感強めですが、靴クリームで丁寧にケアをしていくことによりロウ分が蓄積し革自体が黒光りする。そんな表情を見せることが多いのではないでしょうか。
ボックスカーフには諸説がたくさんあり、本来は四角型の細かいシボがあるのだとか、黒色以外はウィローカーフと呼ばれることもあるとか、なかなか使いこなし切るのが難しい単語だったりします。
接写で比較
ここまで読まれた人ならどっちがどっちかすぐにわかったことでしょう。
上がボックスカーフ。下がアニリンカーフです。
ボックスカーフに比べるとアニリンカーフには明らかに透明な層がありますし、そして銀面の毛穴などについてもよりはっきりと確認できることがわかると思います。
あまりしっくりこなかったらもう一度見てみてください。(笑)
革の固さの違い
さて、実は履き下ろし前に靴クリームなどを塗り込んでいると、とあることにが気が付きました。
それは明らかにアニリンカーフのほうが柔らかい点です。
靴を手に取ったときから薄々感じてはいたのですが、靴クリームを入れた後の差は歴然です。
キッドスキン(山羊革)か?ってくらい柔らかいですし、何より”薄さ”を感じます。
一方でJMウェストンのボックスカーフはこの通り。
ボックスカーフらしく、やや硬めながらも高品質な革特有のしなやかさを感じるのはさすがといったところです。
厚みに関してもボックスカーフのほうが確実に厚いですね。
ここからは私の完全な予想なのですが、クロケット&ジョーンズのアニリンカーフは日本でいうベビーカーフなのかもしれません。(生後3か月程度の子牛)
薄くて柔らかくて傷が無い。まさにアニリンカーフの条件にピッタリではないでしょうか。
反対にJMウェストンのボックスカーフは所謂欧米のカーフで生後1年未満あたり。
なので厚みがありますし、傷などがついたとしても隠せる仕上げになっているのかなと。
※これは完全に個人的な予想なので間違っている可能性もあります。
履きシワの違い
靴クリームを入れた後に履き下ろしたのこちらの画像です。
両方ともシューツリ―は入れていません。
やはり柔らかさが際立つアニリンカーフには深めの履きシワが入っています。
別角度(真上)からの画像がこちら。
履きシワ自体は同じ位置に入っていますが、シワの強さは明らかに差があります。
JMウェストンのボックスカーフは非常に強靭なことでも有名です。
シューツリーを入れていないのにここまで復元するとは・・・。
老舗の超有名タンナーデュプイ社(DUPUY)を傘下においてあっただけのことはありますね。
アニリンカーフならではレザーケアは?
順番が前後してしまいますが、ボックスカーフはともかくアニリンカーフのメンテナンスはどうしたらいいんだろう?と思っている方もいると思います。
実はイタリア製のシューケア製品を数多く販売しているm.モゥブレィから専用の商品が出ています。
その名もアニリンカーフクリームというもので、薄めのデリケートな皮革素材のために開発されたシミになりにくいナイスな靴クリームなんです。
気になる方はこちらの記事をどうぞ!
アニリンカーフとボックスカーフの違いまとめ
ということで今回はボックスカーフとアニリンカーフの違いについて迫ってみました。
ちなみに私のバイブルともなっている皮革ハンドブックによると、これら二つの皮革素材は以下のような特性の差があるそうです。
ボックスカーフ | アニリンカーフ | |
厚さ | ☆☆ | ☆☆ |
切断時の伸び | ☆☆☆ | ☆☆☆☆ |
銀面の強さ | ☆☆☆☆☆ | ☆☆☆☆ |
耐水性 | ☆☆☆☆ | ☆☆☆ |
吸湿度 | ☆☆☆ | ☆☆☆ |
やはり耐久性や革自体の強さといった点ではボックスカーフのほうが上みたいですね。
アニリンカーフは繊細な革というのがデータ的にも確認できたといったところでしょうか。
※本当はもっと詳細な数値で記載されています。
私自身、革靴にハマり始めた頃はボックスカーフとアニリンカーフの違いなんてサッパリわからなかったものですが、今なら結構見分けることができそうです。(笑)
しかし、よくよく考えてみると製法がちょっと違うカーフの革靴が履き下ろす前の状態で同時に揃っていたあたり、自分の革靴沼も相当ヤバイところまできてしまっているなあと改めて思ったとある日の夜でした。
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