チャーチに始まりチャーチに終わる。
コンサルに始まりコンサルに終わる。
おそらく靴好きならどちらかは聞いたことがある言葉ではないだろうか。
Church’s Consul Oxford Shoes、 もっともフォーマルと言われるストレートチップスタイルのひとつの完成形として名高い同作は、英国チャーチ社のアイコンシューズの顔として君臨し続けている名作中の名作の一足だ。
チャーチのコンサルには主に3つのタイプがあり、それぞれラスト73、ラスト100、そしてラスト173と呼ばれる木型の違いによりその形状が少しずつ異なっている。現行モデルはラスト173が採用されており、その特徴は現代人の足とファッションに合わせたスマートなセミスクエアトゥ。
ラスト100は諸般の事情で割愛するとして、ラスト73は古のクツマニアからも名作ラストと非常に評価の高い木型として名高い。
現代のひとりのクツマニアとして、そしてひとりのチャーチ好きとして「いつかはラスト73を手に入れたい…」と思い続けていた。しかし、ラスト73はいわゆる旧チャーチと呼ばれる時代に製造されたものがほとんどであり、中古品でしか手に入る機会がない状態。
中古品の革靴への意見は幅広いのは承知の上だが、個人的には革靴は多少高くついたとしても自分で育てたい派の筆者にとって条件に適合するラスト73の使ったチャーチの革靴にお目にかかる機会はほとんどなかったのが実情だった。
↑チャーチ特集がありオススメの一冊。
旧チャーチとは?年代別の違い
旧チャーチは別名オールドチャーチとも呼ばれ、今でもある意味神格化されている部分もあるくらい熱烈なファンも多いスペシャルなビンテージシューズと言える。
チャーチはソックシートに表示されている都市名である程度の判別がつき、いわゆる旧チャーチはPRADAグループに買収される3都市時代までを指す。ざっくりに分けるとチャーチは4つの時代にカテゴライズできる。
都市名なし 旧旧旧チャーチ 1960年~
都市名が記載されておらず、とんでもなく古いチャーチは1960年代に製造されたものとなる。当然ながらこれらはもはや日常使いできるような代物ではない。(たまに1日履いてみる程度ならいけるかもしれないが)
2都市時代 旧旧チャーチ 1970年~
ソックシートにLONDON、そしてNEW YORKが記載されているのが旧旧チャーチだ。現代では考えられないほど上質なレザーと手間暇をかけられて作られているようだが、やはり履くにはもはや古すぎる。圧倒的に上質な革でさえここまでの経年劣化に耐えられるとはとても思えない。
3都市時代 旧チャーチ 1980年~
2020年代となった今、ギリギリ履ける最後の砦がこの旧チャーチだろう。三都市モデルとも呼ばれLONDON、NEW YORK、そしてPARISが記載されている。この時点でもまだ極めて上質なレザーと手間をかけて製造されており、デッドストックもかろうじて残っている。
4都市、5都市時代 現行チャーチ 1999年~
PRADAグループに買収された後は現行チャーチとして一括りにされる。レディースライン向けのMADE IN ITALY製も登場し始め、ノーサンプトンで製造される靴にもファッショナブルな要素が入ったモデルも出始めている。
旧チャーチ Church’s CONSUL BLACK CALF LAST73
各種用途の靴が揃い、靴道楽から少し距離置き始めていたとある日、ふと思い立ったように検索すると旧チャーチのデッドストックが目に入ってしまったのが運の尽きだった。気が付いたときには筆者の手元に届いてしまったという訳だ。
端正なストレートチップスタイル
CONSUL(コンサル)は、旧チャーチにおいてもストレートチップスタイルを指す名称となっている。一時期ラスト73を使ったストレートチップをBALMORAL(バルモラル)と設定していた期間もあったのはチャーチ好きの常識のひとつ。
※ちなみにCheywyndはNeneと設定されていた。
これ以上ないくらいフォーマルな佇まいのストレートチップ。
レザーソール
これぞチャーチという意匠のひとつがこのオープンチャネルのレザーソールということに異論の余地はない。オープンチャネルが映えるようにレザーソール自体にも装飾が施されている具合だ。
ヒールトップは現在のくさび型とは異なり、三日月型仕様となっている。
MARUZEN×Church’sのコラボモデル
今回手に入れた旧チャーチのコンサルだが、ソックシートを見ると一般的なモデルではないことが明らかだ。旧タイプのロゴの下にはLONDON、NEW YORK、PARISの三都市が記載されていることからPRADAグループ買収前の旧チャーチなのは明らかだが、下のMARUZEN TOKYOとは一体何を指しているのだろうか。
関係していそうな各社にお問い合わせさせていただいたところ、今は書店として誰もが知るMARUZENが洋品事業を行っていた時代に販売されたWネーム商品であり、その発売はおそらくは1982~1995年の期間のどこかだろうということ。
そしてチャーチは昔からウィズ選択が可能であったため、当時の日本人の足に馴染みやすい幅広ウィズ、つまりGウィズを仕入れていたという2点が明らかとなりました。(重ねて調査等いただき、ありがとうございました。)
いずれにしても最低でも約30年前のデッドストックが残っていたのはまさに奇跡といったところ。
別注仕様はレザーライニングか?
一見するとソックシートのプリントだけが特別なのかと勘違いしてしまいそうなくらい普遍的な仕様の本靴だが、よくよく考えると一つの答えにたどり着いた。それはライニング素材だ。
一般的に旧チャーチはコットンライニング、つまり足の指先などに触れる箇所は綿素材のものがほとんどだ。しかし、このWネームのコンサルは現行品と同様のレザーライニングとなっている。おそらくはここが特別仕様だったのではないだろうか。
旧チャーチの革質は?
靴好きであるならば、やはり「革質の違い」というポイントは気になるところだ。かく言う筆者もその一人で何なら本当に昔のほう革質が良かったのか?と思ってしまうくらい懐疑的であったことは否定しない。
結果はどうか。昔の革は上質だと認めざるを得ないほど肌理は極めて細かく何より柔らかい。レースステイ部分は経年を感じさせるが他のパーツについては新品同様といっても過言ではない上にとにかくしなやかなレザーだ。
別記事でビンテージレザーのプレメンテナンスを紹介する予定だが、本靴に関しては一般的なシューケアでも良かったかもしれないと思うほどだ。
(これが20年前の革靴かと思うほどにきめの細かいシワ)
ラスト73の特徴
次に旧チャーチのラスト73の特徴を紹介したい。まず靴内部に記載されるインフォメーションは非常に達筆で読めない。とくに最下部のコンサルはこの靴がコンサルだと認識していないとまず読めないだろう。
捨て寸が短い(トゥボックスが短い)
冗談はさておき、まず初めに気が付くのが捨て寸部分が短いことだ。これは旧チャーチに限らず古い革靴にありがちなスタイルだ。捨て寸の確保という概念が弱かったのか、あるいは指の長さが短めだったのか知る由はないのが残念ではある。
甲が低め
ラスト73は甲が低めだ。とくにレースステイ部分の前方からが顕著であり、トゥ側からみるとその甲の薄さは明らかだ。かといってカカト側の甲もそこまで高い訳でもなく、全体として薄い印象を受ける。
絞られた土踏まず
旧チャーチのコンサル73ラストがチャーチ製とは思えないほど土踏まずが絞られていることには非常に驚いた。同社の方向性として土踏まずをキーにしたフィッティングを指向しているとはどうしても考えることができなかったためだ。土踏まずが狭めのシャノンですらここまである種グラマラスなフォルムにはなっていない。
ボールジョイントは広め
最後に触れるのはボールジョイント部分だ。先ほどグラマラスなフォルムといったのはこのボールジョイント部分の横幅と土踏まずのギャップに起因するところも大いにある。
この靴はGウィズであるのが多少影響されているかもしれないが、少なくとも現行チャーチはウィズによって横幅が変わらないことは私が別記事で紹介している通りのため、おそらくは木型の特徴によるものだろう。
ラスト73のサイズ感は?
旧チャーチのラスト73のサイズ感、サイズ選びだが結論として筆者は「UKサイズ通り」を薦めたい。ジョンロブが8.0Eだから…エドワードグリーンがUK8.5Eだから…ではなく、単純にゲージ通りで良いと思う。もちろんウィズについてはE=F、F=Gとひとつ上げるチャーチ特有のウィズ基準の変換は考慮する必要がある。
私の場合は、UK8.5F(EE)がゲージサイズとなるため、ラスト73ではUK8.5Gウィズがジャストサイズだった。これはラスト173基準で考えると下記となる。
ラスト73のサイズ=ラスト173とハーフサイズアップ、同ウィズ。
ラスト81と同サイズがオススメ
ちなみに参考情報となるが、どうしても実物に近い靴が履きたいのであればラスト81がオススメだ。ラスト81について筆者はUK8.5Gを所有しているが、履き心地としてはかなり近い感覚と感じた。トゥボックスの先端は81ラストのほうが広がりがあるが、そもそも甲が低いため同サイズを選んだ場合、そこまでの影響はないはず。
まとめ
今回は今でもチャーチ社の傑作と名高い旧チャーチ、そしてラスト73のサイズ感や皮革の品質などをご紹介した。実際に手にしてみてその評判が正しい評価だと確信できたのは靴好きとして嬉しい経験となった。もしあなたが旧チャーチを所有していないのであれば、ぜひお好みに合うデザインとサイズの靴が出たら検討してみることをお勧めしたい。
次回はラスト173との比較や、シューケアマニアによるビンテージシューズのレザーケアの様子に触れていく予定なので楽しみにしてほしい。
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